自分の食欲すらもどうにもできない。

 

 


昼過ぎに出かけることになった。

前日に飲んでいた事もあり、起床は12時。

家を出るのは1時間後の13時。

 


準備を済ませ、カバンに入っていたチョコレートをつまみながら家をでた。

 


電車に揺られること小一時間、唐突に食欲が目を覚ます。

 


到着時間ギリギリのためコンビニに行く暇もなければカバンの中に非常食もない。

 


突如とても良い香りが鼻を掠める。

 


電車の中での食べ物の匂いというのは時にテロと言っても過言ではない。

 

 


マクドの様にも思えるその香りだったが、マクドほどの主張もない。

優しい、素朴な香りである。

ヨーロッパの朝の様なこの匂い。

 

 

 

 


パンだ。

 

 

 

 


生まれて20年、朝はパンというキャッチコピーのCMに影響を受けたのか、母親に選択権のある我が家は毎朝パンだった。

 


惣菜パン、菓子パン、時にはパン屋に赴いた。

 


成長期のおやつもパン。

 


これまで沢山のパンを摂取してきた私にとってパンを嗅ぎ分ける事など朝飯前。

 


揚げられたパン粉の匂いと前にでてくる少し甘みを含んだその匂い、バターをタップリ練り込んだクロワッサンか。

 


コンビニやスーパーのパンでは太刀打ちできない焼きたてパンの香りに包まれた私の脳内は徐々にパンに染められていく。

 

 

 

パンだ。

用事が終われば私はパンを食べなければならない。

よく〇〇の口だと使うが、もはや口だけの問題では無くなっている、五臓六腑が欲しているのだ。

 


用事を済ませた15時過ぎ、私はパン屋を探す。駅近くにコーヒーとサンドイッチの店と謳った喫茶店があったが、サンドイッチに私のパン欲を満たす事は荷が重すぎるだろう。

 


市内まで戻り、パン屋を探そうと決めた私。

電車を待つがなかなかこない。

膨張する食欲。

ここは一度何か食べておかなければ、これからくるパンに失礼だろう。

 


一度改札を出てローソンへ向かう、サンドイッチと唐揚げを買う。

店をでて外で唐揚げを食べていると野良猫が近づいてきた。

やたらデカい声で鳴いてくる。毛並みもいいのでたらふくコンビニ飯でも食べているのだろう。

 


サンドイッチを食べたにもかかわらず、やはりあの香りのパンを求めている。

乗り換えで降りた駅でパン屋を見つけパンを吟味する。しかし、先程のサンドイッチのせいであまりガッツリとしたものは胃が受け付けていない。

 


と、そこにスコーンが。

 


無類のスコーン好きな私にとって買わないという手はない。

これをあたためたら完璧ではないか。

 


イートインでと伝えコーヒーも頼んだ。

 


すると店員はトレーからお皿にそのまま移した。

そこで気づく。イートインでも温めるなどというオプションはない。ショッピングモール内のパン屋に期待しすぎたか。

ただただこの状況を受け入れるしかない。

 


コーヒーを飲みながらスコーンを食す。

しっとりとした素朴な味のスコーンだった。

リベイクしたらこんな味だろうなと想像しながら食べたら、悲しくなった。

 

 

 



ただいっぱい食べた一日だった。